ミニ観光で感動再発見(2)

(2019年08月31日)

高崎駅ゼロ番線・上信電鉄各駅停車の旅

烏川を渡る上信電車

日本で2番目に古いローカル私鉄

普段、自動車で移動しているビジネスマンに、ぜひ上信電鉄に乗って電車の楽しさを満喫していただきたい。子ども心に戻って電車に乗るのはとても楽しく、味わいにあふれている。

高崎駅西口の名物、階段下の立ち食いスタンドの横から今はほとんど利用されていない1番線ホームに入ると、上信高崎「0(ゼロ)番線」の改札が見えてくる。ローカル線ならではの懐かしい雰囲気に包まれている。

上信電鉄は、かつては富岡製糸場や沿線で生産された繭や生糸も輸送し、西群馬の産業を支えた鉄道だ。大手を除き、現存するローカル私鉄として国内2番目の歴史がある。高崎・上野間の開通から13年後の明治30年(1897)に高崎・下仁田間33.7㎞が開通した。

「0番線」ホームは珍しく鉄道ファンにとって興味を惹かれる名称だ。ホーム番号は駅長室に近い方から付けられるのが慣例という。かつては「9番線」だったが、8番線の向こう側にホームがあると勘違いされることが多かったので「0番線」にしたとか。

 

昭和の香りが漂う改札で切符に入鋏

切符売り場には自動販売機もあるが、昔ながらの窓口で厚紙の懐かしい切符「硬券」も売っている。改札は駅員さんが切符に鋏を入れる「入鋏」となっており、硬券に入鋏して乗車したい。  「上信電鉄各駅停車の旅」と銘打ったが、現在は各駅停車しか運行されていない。また各駅で降りると大変なので、電車に揺られながら窓から景色を楽しみ、山名駅か吉井駅で往復してくるのがオススメである。

上信高崎・吉井間の往復料金(大人1,120円・小児560円)で高崎・吉井区間内が乗り降り自由な「上野三碑巡りフリー乗車券」が販売されている。ちなみにお得な切符では、富岡製糸場の入場券付きの見学往復割引乗車券(大人2,140円)、1日全線フリー乗車券(大人2,220円)も販売されている。

 

沿線は歴史ロマンが盛りだくさん

上信高崎を出発すると、高崎アリーナの横の踏切を過ぎて、国道17号バイパスを渡り、南高崎駅から佐野の渡し駅、烏川鉄橋となる。上信線沿線には万葉集東歌に歌われた場所がたくさんあり、その一つが、当地の「上毛野佐野の舟橋取り放し親はさくれど吾はさかるがへ」である。佐野の舟橋の両岸に暮らしていた恋人たちの悲恋物語も伝えられている。

烏川を渡り、根小屋駅が上野三碑「金井沢碑」の最寄り駅で、碑は駅から徒歩で10分。次が高崎商科大学前駅で、火祭り「鹿島の七日火」で知られる鹿島神社が山沿いの森の中にある。

山名八幡宮の参道を過ぎて山名駅。高崎駅から山名駅まで所要時間は約13〜4分。山名駅周辺は上野三碑をまちづくりにつなげようと活動するカフェなどもでき、山名八幡宮も含めて駅周辺が散策できる。山名は武将・山名宗全で知られる山名氏の発祥の地とされる。

 

巨匠監督が選んだ山名の風景

山名駅から次の西山名駅にかけて、シンガポールの巨匠エリック・クー監督、斎藤工さん主演の映画「家族のレシピ」が撮影された田園風景が広がる。南には多野の山々が連なり、古代多胡郡の風景を見ることができる。かつてこの地に定住した渡来人たちの故郷に似た風景ともいわれている。巨匠エリック・クー監督もこの風景の美しさに共感した。シンガポールの世界的カメラマン・レスリーキーさんもこの風景を撮影している。

山名駅の次、西山名駅が山上碑の最寄り駅で碑まで徒歩20分。谷あいを歩き、長い石段の上に碑と古墳がある。時間があれば山名駅から丘陵の遊歩道で山上碑まで歩いてもよいだろう。

西山名駅は、かつては水泳場前駅という名称だった。昭和4年(1929)に上信電鉄が鏑川をせき止め数百メートルの水泳場を開設。当時人気の映画俳優たちを呼んで人気を博した。その後、入野駅と改称。万葉集東歌に「我が恋はまさかも悲し草枕多胡の入野のおくもかなしも」と歌われた由緒ある地名である。

次の馬庭駅から北に徒歩5分、剣術の古武道「馬庭念流道場」がある。赤穂浪士の一人、堀部安兵衛も若き日に馬庭念流に入門している。この地が吉良邸討ち入りにつながっているのである。なお山名八幡宮の参道には、馬庭念流中興の祖・樋口定次が枇杷の木剣で断ち割ったという大石がある。

 

駅から自転車も楽しめる

馬庭駅から鏑川を渡ると、多胡碑の最寄り駅、吉井駅である。上信高崎駅から吉井駅までの所要時間は23〜4分といったところだ。

上野三碑のホームページでは、吉井駅から多胡碑までは徒歩25分と記されているが、無料の上野三碑巡行バスが午前9時から45分間隔で運行されているので、利用すると便利だ。このバスは吉井駅 多胡碑 山上碑 山名駅 金井沢碑に停車し、吉井駅・金井沢碑間を往復している。最終の金井沢碑発は午後2時55分。

事前に連絡すれば無料で電車に自転車が持ち込める時間帯があり、上信高崎、吉井、上州福島、上州富岡、下仁田で乗降できる。また根小屋、吉井、上州富岡駅などに無料レンタサイクルがあり、駅員がいる時間に利用できる。

 

短時間で楽しめる電車旅

例えば、高崎発12時13分下仁田行きに乗車、吉井駅12時35分着、吉井駅前から上野三碑巡行バス12時45分発に乗車、12時55分多胡碑着、1時間見学して、三碑巡行バスの多胡碑発13時55分吉井駅行きに乗車、14時05分吉井駅着、14時12分吉井発高崎行きに乗車、14時36分高崎着。約2時間半の小旅行となる。

短時間で郷愁や旅の情緒を味わうなら、高崎から山名まで12、3分。時間帯にもよるが、30分程度待っていると、高崎方面の上り電車が来るので、山名八幡宮やカフェなどに立ち寄っていれば、ちょうどよい。高崎・山名の運賃は片道大人350円。

上信電鉄も観光開発に力を入れ、イベント観光列車の運行、上野三碑巡りウォーキングを行い、記念切符、観光用割引切符、上信電鉄グッズなども販売している。また、上信線の各駅では車椅子対応など施設のバリアフリー化なども順次進められている。

高崎商工会議所『商工たかさき』2019年7月号

 

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