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ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男

志尾 睦子

2017年 イギリス 125分
監督:ジョー・ライト
出演:ゲイリー・オールドマン


世界を変える決断を迫られた男

 いよいよ師走。今年が終わると思うと気忙しく感じますが、区切りを意識して生活したり仕事をすることは大事な事です。これまでの一年を総括し、問題点があればそれを洗い出し、しっかりと反省する。そうすれば、次の年に踏み出す時にはそれを活かし新しい気持ちで挑むことができます。言い換えれば、それは新たなる道を決めていく事でもあります。新しい決断がよき道へと繋がるように、しっかりと見極めていきたいものです。
 さて今回は、歴史を動かした男の物語をご紹介します。主人公は、伝説のリーダーとして今もなお人々に語り継がれる人物、1940年に英国の首相となったウィンストン・チャーチルです。就任からダンケルクの戦いに臨むまでの知られざる27日間が語られます。
 物語はチャーチルが首相に就任するところから始まるのですが、最初はいわば消去法で選ばれたリーダーでした。第二次世界大戦が勃発しすぐにナチスドイツの勢力が増大、フランスももはや陥落かという頃で、イギリスへもまた侵略の脅威が迫っていました。最大の国難にどう対処すべきか、チャーチルは首相としてその運命を委ねられます。しかし、これまで数々の失策をした政治家であり、嫌われ者だったチャーチルゆえに、彼を進んで支持する人はいませんでした。そんな中、チャーチルは現状を把握し自分がすべきことに対し真正面から向き合います。第二次大戦下すべての国民を救う手立てはないのです。では、どの道を選ぶことが、これからの道を切り開き、生きていく国民に希望をもたらすことが出来るのか。民衆の声に耳を傾け、自身の心に忠実に、彼は一世一代の決断を下します。
 一人の男の決断が、国民の、延いては世界の運命を変えてしまう。偉大なるリーダーとは何をする人なのか。チャーチルの生き方に、その本質を見た気がしました。彼が民衆と言葉を交わす列車内のシーン、そして4分にもわたる大演説のシーンは映画史に残る名シーンとも言え、圧巻です。
 史実の凄さもさることながら、この映画が名作たり得るのは、チャーチルの人となりを丁寧に伝え厚みのある人物像を構築したゲイリー・オールドマンの名演あってこそ。オールドマンはこの役をするにあたり、当時映画界を引退して美術家の道を歩いていた日本人のメイクアップアーティスト辻一弘を指名したそうです。彼らがそれぞれの役割を引き受ける決断をしなければ、この名作は生まれなかった、と思うとまた感慨深い一作です。


高崎商工会議所『商工たかさき』2018年12月号

志尾 睦子(しお むつこ)
群馬県立女子大学在学中にボランティアスタッフとして高崎映画祭の活動に参加。群馬県内初のミニシアター「シネマテークたかさき」の総支配人を務めると同時に、日本を代表する映画祭である高崎映画祭総合プロデューサーとして活躍。

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