ビジネスパーソンにお薦めするこの1本 No.14

イントゥ・ザ・ワイルド

志尾 睦子

2007年 アメリカ 2時間28分
監督:ショーン・ペン 原作:荒野へ
原作者:ジョン・クラカウアー
出演:エミール・ハーシュ


映画で人生の旅に出てみるのも一考

 GWも終わり、清々しい風が吹いたと思えば季節は梅雨へと向かいます。気候の不安定さが呼び水になって、どこかちょっと気が重いような、モヤっとしたものが自分の内側に現れる時期な気がします。私はそんな時、映画に力を借りて、ちょこちょこと気分転換を図ります。自分の人生を今すぐ変えることはできないけれど、映画の主人公にそれを代わってもらうという見方もなかなか良いものです。今回はどっぷり人生について考える一作をお勧めします。
 本作のモデルになったのは、実際に24歳で他界したクリストファー・マッカンドレスという1人の青年です。彼は1992年の夏、アラスカの荒野で遺体となって発見されました。なぜ彼はこの地でたった1人で死んでいたのか。このニュースは全米で話題となり、その死の謎に多くの人が想いを馳せたと言います。冒険家でノンフィクション作家のジョン・クラカウワーはこの件を丹念に取材し、1995年にノンフィクション小説を書き上げました。それを原作に映画化されたのが本作です。
 裕福な家庭で育ち、名門大学を優秀な成績で卒業した青年クリス。これから更なる活躍と輝かしい未来が約束されていると誰もが思っていた彼はある日突然、人々の前から姿を消します。大学院へ進むための学費を寄付し、IDとクレジットカードを燃やしたクリスは1人放浪の旅に出るのです。こうしたテイストの映画は他にも数々ありますが、単なる一時的な自分探しの旅ではないのが本作の強烈なところです。その真を貫くのが雄大な自然と常に向き合いながら一歩一歩進んでゆくクリスの姿にあります。いく先々で彼は、様々な自然と、生身の自分の体で対峙します。そして様々な人たちにも出会って行きます。恐ろしい経験も、不思議な出来事も、辛いことも、常に目の前にあることに彼は彼なりに向き合い、真っ向から自分の人生を生きようとします。肉体が変わり、精神が変わっていく、そのクリスを見ているうちに、なんだか自分も一緒に旅をしている気分になってくるのです。
 雄大な自然の美しさも、恐ろしさも、深さも、この映画は克明に、手を抜かずに描き出そうとします。壮大な自然の前で、自己のアイデンティティを見つめる時間がここにはありました。
 主人公と共に旅をしていく内に、新しい気分の始まりをつかむことができたらしめたもの。明日からの仕事がメキメキと捗るかもしれません。
 監督は、名俳優でもあるショーン・ペン。名監督としての仕事ぶりも必見です。

高崎商工会議所『商工たかさき』2018年5月号

志尾 睦子(しお むつこ)
群馬県立女子大学在学中にボランティアスタッフとして高崎映画祭の活動に参加。群馬県内初のミニシアター「シネマテークたかさき」の総支配人を務めると同時に、日本を代表する映画祭である高崎映画祭総合プロデューサーとして活躍。

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