ビジネスパーソンにお薦めするこの1本 No.13
バードマンあるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)
志尾 睦子
2014年
監督:アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ
出演:マイケル・キートン
願えばいつか空も飛べる
新年度になりました。心機一転、何か新しいことや大きなことにチャレンジしようとする方も多いのではないでしょうか。そんなタイミングにこそオススメしたいのが本作です。
主人公は、かつてハリウッドで大活躍した映画俳優リーガン・トンプソン。彼は『バードマン』というコミックヒーローものを実写化した際の主役で確固たる地位を築いた役者という設定です。バードマンシリーズが終了してはや20年が経ち世間からは過去の人、と見られています。アクション俳優として一時代を築いたものの、その次のステップに行けなかったリーガンは栄光にすがったまま生きてきた男です。仕事も家庭も挫折続きのリーガンでしたが、このままでは終われないと心機一転自分の立ち位置を変えようとします。アーティストとして舞台演出を手がけブロードウェイに打って出るのです。今ではすっかり落ちぶれた役者の烙印を押されているリーガンですから、いきなり本場ブロードウェイにいくのは無謀すぎる企画なのですが、反対に有名人だからこそその機会は手に入れられてしまいます。そうして稽古が始まりますが、当然様々な問題が勃発します。色々がうまくいかない中で、リーガンは次第に、現実と妄想が混濁した世界にさまよい込んで行きます。果たして彼は、舞台を成功させることができるのか、世間に自身の存在を再度知らしめることができるのか…。
ストーリーラインとしては落ちぶれた俳優がもう一度返り咲こうとする話。なのですが、単純にそれでは終わりません。人生というのは悲しいかな、これまで生きてきた時間に呼応して物事は形成されていくわけで、一念発起したからといって全てがリセットされるわけではありません。気負いが大きければ大きいほど、その現実の残酷さに打ちのめされることになります。リーガンにとってはバードマンが越えなくてはいけない現実として立ちはだかるわけですが、そこで諦めず意地でも進み続けることで彼はいつしかバードマンを越えていくのです。それもとびきり、素敵な方法で。
いやはや本作は本当に面白い映画なのですが、その映画的手法が内容と相まって観客にカタルシスをもたらします。ワンカット(に見える)素晴らしきカメラワーク、スペクタクルな世界観を表現する美術、そして感情を湧き上がらせる音楽の素晴らしさ。どれをとっても1級品。新年度のパワーチャージにオススメです。
高崎商工会議所『商工たかさき』 2018年4月号
- [次回:イントゥ・ザ・ワイルド]