「働き方改革」を企業経営に
(2019年03月30日)
4月から有給5日取得義務
働き方改革の一環となる「年次有給休暇5日取得義務」が、今年4月から中小企業を含むすべての企業を対象に施行される。こうした状況への理解と企業としての対応等について、社会保険労務士事務所人事サポートの泉裕次郎さんに話をうかがった。
「働きすぎ」「休み方がへた」と言われがちな日本人。長時間労働を是正し「時間をかけて成果を出す仕組み」から「限られた時間で成果を出す仕組み」へ転換するため、国は「働き方改革」を推進している。
「働き方改革」の一環として、今年の4月から中小企業を含む全ての企業において、年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対して「年5日について使用者が時季を指定して取得」させることが義務付けられた。本制度について社会保険労務士事務所人事サポートの泉裕次郎さんは、「単に有給休暇を取ればいいということではなく、企業の経営問題として、雇用者の確保や生産性などにも波及していく」と指摘する。
働き方改革が段階的に実施
国がめざす「働き方改革」は、少子高齢化により人材不足の恒常化が予想される中で、「労働者から選ばれる企業」として事業継続をはかっていくものとなっている。
「働き方改革」政策として残業規制、年次有給休暇の時季指定義務、最低賃金アップ、同一労働同一賃金などが盛り込まれている。このうち、年次有給休暇5日取得義務が今年4月施行、時間外労働の上限規制(原則月45時間・年360時間)が大企業は今年4月、中小企業は来年4月に施行。さらに月60時間超の時間外労働の割り増し賃金率引き上げが、大企業は既に適用済み、中小企業は2023年4月施行となる。
「時季指定義務」って何ですか
今年4月1日に施行される「年次有給休暇の時季指定義務」は、年次有給休暇が10日以上付与される労働者について、付与日を基準に1年間に5日間の取得を時季指定しなければならないとされている。時季指定にあたっては、労働者の意見を尊重するよう努めるものとなっている。
通常雇用の場合6カ月間雇用すると10日間の年次有給休暇が付与されるので、4月入社の新人社員についても、10月にはこの制度の対象になる。
年間5日間取得させなかった場合は罰則の対象となり、罰則の内容は「30万円以下の罰金」となっている。
今年4月から初めて導入される制度で、どのように運用していいのかわからない。4月1日に社員全員の有給休暇5日分に日程を決めないといけないのだろうか。「時季指定という言葉が強調される余り、制度が誤解されている」と泉さんは指摘する。
5日間の有給取得がポイント
休みにくい雰囲気の職場では、有給休暇の申請が出しにくい。また「休んでなどいられない」とがんばる社員もいるだろう。しかし、4月からは社員全員が年間に最低でも5日間の有給休暇を取得して、仕事を休まないといけなくなる。無計画にしていると、年末や年度末にあわてて消化する社員が集中して、業務に支障をきたす恐れもある。
ゴールデンウイークやお盆休み、年末年始など、休業する企業は、労使協定によって休業期間に有給休暇を加えて休暇期間を延ばす「計画的付与制度=計画年休」を導入すると、計画年休分の日数を義務日数の5日間から減じることができる。
なおカゼで寝込んで有給休暇を使って会社を休むなど、労働者が請求・取得した有給休暇の日数は、時季指定義務の5日から減じることとなっている。
職場の上司や同僚に気兼ねなく有給休暇を取得するため、年次有給休暇取得計画表を作成し、労働者ごとの休暇取得予定を示すものとされる。また使用者は労働者ごとに年次有給休暇管理簿を作成し、3年間保存するものとなっている。年次有給休暇管理簿は労働者名簿や賃金台帳と合わせ、システムで管理できる。
働き方改革は「経営改革」
有給休暇は、経営的にはマイナスとなる休暇である。
小売業、飲食業、サービス業など、休業日を増やしたり営業時間を短縮したりすることが難しい業種もある。少人数のスタッフで切り盛りしている店舗は、一人が休むとシフトに穴が空いたり、業務が回らなくなることもある。かと言ってスタッフを増員する余裕もない。経営者としては、スタッフに年5日も有給休暇を取らせるのはかなり大変なことのように思える。
有給休暇を取得する社員が少なかった事業所は、今後、全員が少なくとも年間に5日間は有給休暇を取得するので、トータルすると相当の生産減になったり、休んだ人をカバーするために人件費が増えることもありうる。
「働き方改革は、経営に関わる企業課題になる」と泉さんは指摘する。「中小零細の経営者の中には、うちには余裕がなくて対応できない、関係ないと、課題から目をそらしてしまう場合もある」という。
泉さんによれば、ライフスタイルや人生観の多様化で、「お金よりも残業がないほうがいい」という働き方が増え、有給休暇の取得率は企業選択の重要な指標になっているそうだ。また、あってはならないことだが、過労や残業代の未払いなど労働問題となった場合のリスクは大きく、働き方改革に対応した経営改善は、将来リスクを回避する意味でも有意義ということだ。
働き方改革に関する問い合わせ・相談は群馬県社労士会働き方改革推進支援センター 0120―486―450へ。希望により専門家の訪問相談(3回以内)もある。
関心呼んだ「働き方改革」セミナー
高崎商工会議所は、1月25日に「中小企業のための働き方改革セミナー」を開催し、社会保険労務士の山﨑正久さんから、課題とポイントに実践的な解説を受けた。セミナーには経営者や労務担当者など大勢の参加があり、関心の高さをうかがわせた。
高崎商工会議所『商工たかさき』2019年2月号