ビジネスパーソンにお薦めするこの1本 No.11

マダム・イン・ニューヨーク

志尾 睦子

2012年 インド
監督:ガウリ・シンデー

思い立った時こそがやるべき時

 迫り来る年度末に向けてまとめをするタイミングがやってきました。同時に、一年は始まったばかりで、仕事のスキルアップを考えたり、自身のブラッシュアップが頭をよぎる時期ではないでしょうか。なんでも迷わずにやってしまう人もいるのでしょうが、とはいえ、今更やっても遅いのではないか、とか、自分には無理なんじゃないか、と思い込み、せっかくの思いつきを実行に移せないという人も多いはず。そんな風に思ってしまう時こそ、こんな映画はいかがでしょうか。
 主人公はインド人の主婦・シャシです。忙しい夫と子供たちのために、身をつくす良妻賢母です。お料理上手で、インドの伝統菓子“ラドゥ”の腕前は販売を頼まれるほどに高いのですが、自分は主婦であってそんな立場ではない、とシャシは思っています。夫も妻の腕前は認めるものの、自分の妻が社会とつながることなどできないと思い込んでいます。また、家族の中でシャシだけが英語を話せないこともあり、夫も、インターナショナルスクールに通う子どもたちも英語が話せないシャシの事を、何処かで社会と繋がれない、家族の中だけで生きる人と決めてかかっています。そんな家族の態度に、切ない気持ちと、言いようのない寂しさを覚えるシャシがいました。
 そんな時、ニューヨークに住む姉から、姪っ子の結婚式の準備を手伝って欲しいと頼まれます。シャシはひと月後に控えた結婚式のため、家族より先に一人ニューヨークへ向かいます。英語が話せない彼女は空港でも一苦労、カフェに入っても満足にオーダーできず、お店で騒ぎを起こしてしまいます。意気消沈するシャシの目に飛び込んできたのは、「4週間で英語が話せます」という英会話学校の広告でした。かくしてシャシは、誰にも内緒で英会話学校に通いだします。
 シャシはそこでもまた失敗をしたり周囲の理解を得られなかったり、傷ついたりします。しかし、彼女は自分の力で立つことの意味に気づいていきます。彼女が英会話学校で獲得したのは英語力よりもむしろ自信や自立心や自尊心なのです。環境が変わることは一つのきっかけにはなりますが、それだけで世界が変わるわけではありません。うちなる自分を変えるのは自分次第。動き出しさえすればきっと何かを獲得できるはずだと、シャシを見ていて思いました。
 思い立ったが吉日。誰にでも、その人にとってのタイミングがあるはず。そんな風に思える一作です。(2018年2月:商工たかさき)

志尾 睦子(しお むつこ)
群馬県立女子大学在学中にボランティアスタッフとして高崎映画祭の活動に参加。群馬県内初のミニシアター「シネマテークたかさき」の総支配人を務めると同時に、日本を代表する映画祭である高崎映画祭総合プロデューサーとして活躍。

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